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澪「ふぇ?な、なんだよいきなり」 律「にしし、確かになー」 紬「凶器よねー♪」 キラキラ 澪「ちょっ!そ、そんな目でみるな!」 梓「凶器……」 ジーッ 澪「こっちも!?ゆ、唯!いきなり何言い出すんだよっ」 唯「えー、だって澪ちゃん敵の顔をおっぱいにうずめて窒息死とかさせそうじゃん」 澪「えっ」 澪「そっちの凶器か……いや、どういう凶器だよ!!」 律「あー」 澪「あーってなんだ!あーって!」 紬「あー」 澪「ムギまで!?」 唯「ね、なんかそういうヒロインとかなりそうだよね」 梓「まあ、そう言われてみればなんとなく……」 澪「なんとなくない!なんとなくないから!戻って来い梓!!」 唯「ね、だから澪ちゃんはそういうヒロインなんだよ」 梓「すごいです、澪先輩!」 キラキラ 澪「洗脳完了!?」 唯「もー、澪ちゃんも認めちゃいなよー♪」 澪「違うから!なんか事実として扱われてるけど違うから!」 紬「そうよ、唯ちゃん。澪ちゃんを追い詰めちゃだめ」 唯「ムギちゃん?」 澪「ムギ……」 ジーン 紬「ヒロインが正体を明かしたら変身できなくなっちゃうのよ」 ボソボソ 唯「なるほど!」 ポン 澪「納得するなー!」 澪「もう、なんなんだよこれ……」 ゲッソリ 律「なんだよ澪、ノリわるいなー」 澪「どんなノリを求められてるんだ、これ」 ガチャ 純「おじゃましまーす」 梓「あ、純」 唯「」 キュピーン 純「梓、これ机の中に残ってたよ。明日提出でしょ?」 梓「あ!ごめん、ありがと!」 唯「澪ちゃん澪ちゃん!」 澪「ん?」 純「?」 唯「ほら見て、怪人が出たよ!倒さないと!!」 純「えっ」 澪「おい唯、おまえな……」 唯「ほら見てよあれ!モッ………ふさふさ怪人だよ!倒さないと!」 律(モップって言った) 梓(モップって言おうとしてあんまりだと思って言い直した) 唯「さあいけ澪ちゃん!学園の平和をまもるんだ!!」 純「えーと……私はどうすればいいんでしょう、これ」 澪「ほら、純ちゃんも困ってるだろ。謝れ、唯」 唯「えっ」 純「……」 唯「…困っ……ちゃった?」 純「がおー」 唯「やっぱり怪人だー!」 キャーキャー 澪「ノリがいい!?」 ガビーン 梓「ごめんね、つき合わせて」 純「いやー、なんか楽しそうだし。がおー」 唯「キャーキャー!」 紬「キャーキャー!」 澪「なんだこれ」 律「なにやってるんだ!」 澪「うわっ。びっくりした」 律「善良な市民が怪獣に襲われるのを黙ってみてるなんて、それでもヒロインかっ!」 澪「いやヒロインじゃないから!」 律「あまったれるなー!」 ペチーン 澪「こそばい」 律「あなたがそんないくじなしだとは思わなかったわ!あなたなんてヒロインじゃない!」 澪「だからヒロインじゃ」 律「怖いならそこで見てればいいのよ!あんなやつわたしがやっつけてやるんだから!!」 澪「……どんなキャラ設定だよ」 律「いくわよ!うおおおおおおおおおっ!!」 トテテテテ 純「あ、ども」 律「……」 純「……」 律「……」 純「えい」 ペチ 律「ぎゃああああああああああああああっ!!!!!!!!!」 ドタバターン! 唯「ああっ、りっちゃんが!」 紬「りっちゃーーーーーーん!!!!!」 律「う、うう……、やっぱり生身で怪人に立ち向かうのは…むり…だった……ぜ」 ゲ゙ホッゲホ 唯「しゃべっちゃだめだよ、りっちゃん!」 紬「生身の体で怪人の攻撃を受けるなんて……りっちゃん…っ」 律「……へへ、だ、だれか……が、まもらなきゃいけないんだ、だれかが……みんな……を」 チラッチラッ 紬「りっちゃん!ああ、なんて優しい!そして悲しい人!」 チラッチラッ 唯「だいじょうぶ!きっとヒロインが!きっと、ヒロインが助けにきてくれるよ!!」 チラッチラッ 澪「…………」 梓「澪先輩……」 澪「やんないからな」 唯紬「「えーーーっ!」」 唯「ぶーぶー、みおちゃんノリわるーい」 紬「しゅーん」 律「だ、だいじょうぶ……だ……」 唯「りっちゃん?」 律「二人とも、あたしの手を……」 紬「え、ええ!」 ギュッ 律「いまからあたしの魂を……二人に預ける」 唯「ええっ?」 律「澪を……いや、ヒロインを!助けてやってくれ!」 紬「でも、でも!そんなことをしたら律ちゃんが!」 律「どっちにしろこの傷じゃあ助からないさ……それなら」 唯「でもでも、実際どうすればいいの?」 律「……始めてやるゲームには、チュートリアルが必要だろ?」 ニヤリ 純(ほったらかしだなあ……) 唯「うわー、りっちゃんの魂のちからで私とムギちゃんの体がひかりかがやくー!」 紬「ものすごい力がながれこんでくるわー」 純(あ、なんかはじまった) 澪「なにやってんだ……」 唯「ぽよぽよぽよー、わたしはおっぱいの精霊、ぽよぽよー」 澪「わっ、なんかこっちにくる」 唯「ぽよ!」 ガシッ 澪「えっ、なに!?」 紬「ぽよぽよー♪わたしもおっぱいの精霊ぽよー♪」 純「えっ、こっちも!?」 紬「ぽよ♪」 ガシッ 純「えっ?ていうかおっぱい?なんでおっぱい!?」 唯「ぽよ♪」 ズイッ 澪「わ、おすな!」 紬「ぽよー♪」 ズズズィッ 純「え、なに?なにが始まるの!?」 唯「ぽよー♪」 紬「ぽよよー♪」 澪「わわわっ!近い近い近いっ!」 純「ちょ、ぶつかっちゃいますよっ!」 紬「ぽよ♪」 ヒザ 純「えっ」 カックン 唯「ぽよー!」 グイッ 澪「わっ!」 ポニュン 澪「ひっ、ひゃわわぁ」 純「もがが!?も?」 律「きまったあああああああ!!ヒロインの必殺技、おっぱい殺しだー!!!」 梓「死んだんじゃなかったんですか律先輩」 律「わたしは田井中律の霊魂よ!すぴりちゅある!」 梓「スピリチュアルをこんにちわ的な意味で使わないでください」 律「これからはピンチの時に現れてヒロインを支えるの!おっぱいと共にあらんことを!!」 梓「そこはせめて英語にしてください」 律「バストと共にあらんことを」 梓「Good」 純(わ、私の顔に澪先輩のおっぱいが?なんで?なんで!?) 澪「や、やめろ唯、こらっ」 唯「ぽよー♪」 グリングリン 紬「ぽよよー♪」 グリリン 澪「やあっ //// か、回転くわえるなぁ……」 純「ふおおぁぁぁ」 モゴモゴ 澪「や、喋っちゃ……熱い息が…… //// 」 純(もうなんでもいいや、楽しもう!!) 純「ふもふも!」 澪「やんやん」 梓「……でも冷静に考えて」 律「うん?」 梓「しないですよね、窒息」 律「したらしたで大変だぞ」 梓「ですよね」 律「えー、コホン。ヒロインはそのおっぱいに敵の顔を埋めることで窒息する必殺技をもっていたがー!」 唯「ぽよ?」紬「よ?」 律「おっぱいの精霊の力により5分間おっぱいに埋めることで敵を倒せるようになったのだ!!」 唯「ぽよー」紬「了解ぽよー」 純(冗談じゃあないッッッッッ!!!!!!!) 純「ふも!ふもももも!!」 グリングリン 澪「やっ!ちょ、どうしたん…あっ!」 ビクンビクン 律「うおお!怪人が苦しみのた打ち回っているぞー!」 梓「あと1分でーす」 純(なんだって!?早い!早すぎるよッッ!!!) 純「もももー!」 ギリュンリュンリュン 澪「やーっ!!」 純「もっもっもっ」 グリグリグリ 澪「あっ、んっ!」 ビクン 梓「十秒ー。9、8、7……」 純「もーっ!!!」 ググググッ 澪「や、ちょ!つぶれる!つぶれるっ」 梓「3、2、1」 唯『エクスプロージョン!』 パッ 紬「えっ?あ、ろ、ろーじょん!」 パッ 澪「…解放された」 純「もっもっもっ」 梓「おわりだよー」 純「やーん、もっとー」 律「ぐだぐだだなぁ」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 純「ということで!澪先輩のおっぱいで改心して良い子になりました」 唯「よかったね、純ちゃん!!」 梓「いや、時間切れになってもむしゃぶりついたままだったじゃん」 純「そ、それはー……」 紬「まあまあ、梓ちゃん。昔からいうじゃない?」 紬「“おっぱいが好きな人に悪い人はいない”……ってね!」 梓「いや、なんか綺麗にまとまりそうな雰囲気で言われても」 唯「そうそう、街を破壊する怪人が澪ちゃんのおっぱいのおかげで善良なおっぱい好きに生まれ変わったんだから」 梓「善良っていうんですか、それ」 紬「澪ちゃんのおっぱいには暴力性をおっぱい好きに還元する力があるのよ♪」 梓「なるほどそれはスゴイデスネー」 澪「モウ オヨメニ イケナイ」 唯「ほら澪ちゃん、そんなとこでまるまってないで!」 紬「そうよ!澪ちゃんのおっぱいに秘められた力があかされたんだから!」 澪「もうほっといてくれぇーっ」 唯「もう!そんなこといったらテキと戦えないよっ」 澪「だれと戦わせる気だ、だれとっ!」 唯「………」 唯「だれだろ?」 キョトン 澪「ハァ……」 2
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次の日 唯「おはよー!」 和「あら、おはよう」 梓「おはようございます」 憂「お姉ちゃんおはよう♪」 唯「なんか、通学路で憂に会うって新鮮だね!」 梓「確かに、そうかもしれませんね」 和「それよりも、二人とも。おめでとう」 唯「う、うん///ありがとう」 梓「ありがとうございます///」 唯「憂達も、おめでとう♪」 憂「う、うん///」 律「おーっす!」 澪「おはよー」 律「って、あれ?これって・・・?」 澪「・・・なんか、あれ?」 唯「聞いてりっちゃん!澪ちゃん!」 律澪「ん?」 唯「私達、付き合うことになりました!」エッヘン! 律澪「!?」 律「マジで!?」 和「そうそう、私たちも付き合うことになったの」 律「」 律「どうなってんだ?」 澪「す、すごいな・・・w」 唯「みんな幸せ♪嬉しいね!」 紬「おはよう」 一同「!?」 律「(おい、どうすんだよ)」 澪「(どうするって・・・)」 唯「ムギちゃん聞いて!私達、付き合うことになったの!」 紬「本当に!?」 唯「うん♪」 紬「おめでとう♪」 和「私たちもね」 紬「うそっ!?」 和「本当よ」 紬「おめでとう!!」 和「ありがとう」 紬「みんな、よかったわね」ニコッ 唯「うん、ありがとう♪」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 昼休み~音楽室~ 紬「はぁ・・・」 紬「(唯ちゃん達も結ばれたみたいで、本当によかった・・・)」 紬「(それに引き換え、私は・・・)」 紬「(こうなるって・・・わかってたはずなのにな・・・)」 紬「(みんな、私に気を使わないでくれるといいんだけど・・・)」 紬「(私がこんな状態だったら、それも無理よね)」 紬「(お昼に、こんなところに逃げてきて・・・何やってるんだろう・・・)」 紬「はぁ・・・」 さわ子「なーに溜息なんかついてるのよ?」 紬「さわ子先生!?」 さわ子「そんなにビックリしなくたっていいじゃない?」 紬「えと、あの、すみません・・・」 さわ子「安心しなさい、あなただってにだって、そのうちいい出会いがあるわよ」 紬「・・・何があったのかはお見通し、なんですね?」 さわ子「ええ、そりゃもう♪・・・年の功ってやつかしら・・・」フフフ・・・ 紬「あはは」クスクス さわ子「なんてね。さっきたまたま廊下であの子達とすれ違って、それでなんとなくわかっちゃったのよ」 紬「そうでしたか・・・」 さわ子「大丈夫!失恋したのはあなただけじゃないわ!」 紬「へ?先生も?」 さわ子「ええ。私の好きな人は、他に好きな人がいるみたいなのよ」 紬「そうだったんですか・・・」 さわ子「でも私は諦めの悪い女だからね、ずっと待ってようと思うの」 紬「先生は・・・強いですね」 さわ子「告白してるワケじゃないし、その人が私の気持ちに気付くかどうかすら、わからないんだけどね」 紬「・・・」 さわ子「だからね、その子が、せめて卒業するまでくらいは、黙って待っていようと思ってるのよ」 紬「・・・!この学校の生徒なんですか・・・!?」 さわ子「ええ。それで、誕生日に花束持って告白しに行っちゃおうかしら、なんてね」クスクス 紬「先生って、案外キザなんですね」クスクス さわ子「あら、そういうのは肝心よ?」 紬「そうかも、しれませんね」クスクス さわ子「・・・ところで、ムギちゃん?」 紬「はい?」 さわ子「・・・あなたの誕生日は、いつかしら?」 紬「・・・!?」 紬「私の誕生日は・・・///」カアアアア ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 帰り道 律「そんじゃなー!」 唯「りっちゃんばいばーい!」 澪「ムギも、また明日な」 紬「うん、また明日」 梓「お疲れ様でした」 律「あれ、今日も唯と一緒に帰るのか?」コノコノッ 梓「べっ別にいいじゃないですか!///」 唯「ちょっとりっちゃん、あずにゃんにいじわるしないでよー?」 律「へっへーんだ。このこのー」グリグリ 澪「やめろっ!」ガスッ 律「・・・痛い」ウルウル 紬「それじゃあね」 唯「うん!またねー!」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 澪の家 澪「(この世界に来てから・・・しばらく経ったよな)」 澪「(そろそろ、元の世界に戻ることを考えないと・・・)」 澪「(・・・本当は戻りたくないけど・・・)」 澪「(そういうわけにもいかないよな)」 ティティンルルーン♪ 澪「和だ!」 ピッ 澪「もしもし?」 和「今大丈夫?」 澪「うん、平気だ」 和「あの、そろそろ・・・」 澪「わかってる、元の世界に戻る方法だよな?」 和「えぇ。名残惜しいけど・・・このままだといけないと思うわ」 澪「そう、だな」 和「といっても、これといっていい方法は思いつかないんだけどね」 澪「明日、学校で話し合わないか?」 和「そうね、私も何か考えておくわ」 澪「ああ、おやすみ」 和「おやすみなさい」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 朝 教室にて 澪「おはよう」 和「おはよう」 澪「昨日の件なんだけど・・・」 和「何か思いついた?」 澪「ああ、思いついたっていうよりも、気になった、かな」 和「何?」 澪「あのさ、私達、この世界にくる直前って何してたんだ?」 和「あ」 和「言われてみれば・・・何してたのかしらね?」 澪「私の場合・・・多分、この世界の始まりは部室。気付いたら部室でみんなとお茶してたんだ」 和「私は・・・確か生徒会室ね」 澪「じゃあ、ここに来る前は?」 和「・・・多分だけど・・・生徒会室だったと思う」 澪「私は、やっぱり部室だったような気がするんだ」 和「何か、関係がありそうね」 澪「確か、律が話を切り出したんだ・・・」 和「なんて?」 澪「『恋がしたい』って」 和「・・・!?」 澪「その後で、『どっかにいい女いないかなー』なんて言い出したんだ」 澪「その前までは、普通に私達の世界だった、ような気がする」 和「っていうことは、そのコトバが鍵になっていたのかしら?」 澪「・・・わからない・・・あるいは・・・」 律「おーい、澪ー!」 澪「って律!?」 律「なんだよーそんなに驚くなよ」ポリポリ 澪「えっと、どうしたんだ?」 律「へ?いや、澪昨日風邪で休んだじゃん?」 澪「」 澪「へ?」 律「だから、元気なのかなーって思ってこっち来たんだよ」 和「これって・・・」 澪「もしかして・・・」 律「なんだよさっきから。私、変なこと言ってるか??」 澪「いいや、そんなことないよ。体はもう平気だ。ありがとう、律」 11
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『びっくりしていってね!!』 9KB いじめ 虐待 び どうも気に入らん、ゆっくりというのは。 生まれたばかりから私はゆっくりしてると言い張る癖に、甘味を要求し、高級な住まいを求める。 そのくせ、断ればゆっくりしていない。こんなにゆっくり出来ない私は不幸であるから、 私をゆっくりさせるのが人間としての生まれ持った使命であると宣う。甚だ理不尽だ。 第一、私はゆっくりしていると云うくせに、不満を持つとゆっくり出来ていないと云う。 これでは矛盾も良い所だ。私は以前、ペットとして飼っているれいむに尋ねてみた事がある。 「れいむは、ゆっくりしているのか?」 「ゆゆ? ゆっくりしてるにきまってるでしょ! へんなこというんじゃないよ、くそにんげん!」 「それならば、甘味も住まいも、番もいるまい」 「はあああああああ!!? いるにきまってるでしょおおおお!!?」 「何故だ?」 「ゆっくりできないからでしょおおおおおおお!!?」 罵倒にせよ何にせよ、ゆっくりとは語彙に乏しい。そう思いつつも私は、次の質問を投げかけた。 「じゃあ、れいむはゆっくりしてないんだな?」 「ゆああああああああ!!? ゆっくりしてるにきまってるでしょおおおおおお!!」 「じゃあ、甘味も住まいも番があって、初めてゆっくりしてると?」 「あたりまえでしょおおおおおおおおお!!?」 「じゃあ、やはり、元来はゆっくりしていないのか?」 「ゆっがああああああああ!! ゆ、ゆっぐじじでるにぎまっでるだろおおおおおお!!」 「しかし、先程は」 「う、うるざいいいいいいいいい!! だまれええええええええ!! どにがぐ、れいぶにだんなざんもっでごいいいいいい!!」 れいむは、ぷんすかと怒りながら私の元を去った。これではまるで、一企業に居座る無能な上司のようだ。 どうにかせねばならんだろうと、私は思った。捨てるのは簡単だが、公園に棲み着いた野蛮な野良ゆっくりになられてはこまる。 野良ゆっくりは度々、生ゴミを漁り、悪臭を撒き散らし、市民の貴重な税金を清掃や駆除に使わされている。 とくに、私の住む町では酷いものがある。 余りに多くの野良ゆっくりがいるものだから、定期的な駆除や清掃に税金を割かれ、学校の建て替え費用が丸々吹き飛んでしまったのだ。 子供達は大いに泣いた。私は、それに加担するような人間にはなりたくない。ならば、殺してしまえば良いが、それでは興がない。 ゆっくり、ゆっくり、ゆっくり――びっくり。 唐突に私の頭の中で、びっくりという単語が出てきた。私は大いに歓喜した。まるで、油田を掘り当てたかのように。 語呂が似ているとはいえ、ゆっくりとは全く違うびっくりというものに浸したら、れいむは一体どうなるのであろうか。 前述のれいむに対しての質問から、既に三日経っていた。れいむは相変わらず番を要求し、自分をゆっくりさせろと云う。 「おい! きいてるのかくそじじい! れいむにだんなさんを」 「うわあああああああああああああ!!」 「ゆわああああああああああああああ!!?」 私は突如として大声を上げた。れいむは驚き、仰け反っている。なるほど、これは楽しい。 口を大きく開けて、目をひん剥き、間抜けにも涎を垂らして驚くれいむの表情は、すこぶるゆっくりしていなかった。 「な、なんなんだあああああああああ!!?」 「よし! 決めたぞ、れいむ。 これから私は、れいむを驚かし続ける」 「ゆ? ゆ? ゆはあああああああああ!!?」 「ただし、期間は一ヶ月に限定する。驚く事に耐え、一ヶ月を過ぎれば番をやろう!」 「ふ、ふざけるなああああああああああ!!」 「嫌なのか?」 「あたりまえだろおおおおおおお!!」 いつも以上に顔を歪めて、憤るれいむ。私は、この条件を呑まない限りは番もあり得ないし、赤ゆも望めないと云った。 「ゆぎぎ……くそにんげんのくせに、えらそうに……」 「どうする? 野良ゆっくりの生活でも営むか? 甘味も無ければ、安寧に満ちた生活も無いぞ」 「ゆぐぎぎぎぎ……ぜったいだよ! やくそくはぜったいまもるんだよ!!?」 「勿論だ。 ……うわあああああああああああああ!!」 「ゆあああああああああああああああ!!!?」 こうして、れいむの驚愕生活は始まった。最初は突拍子もなく大声を上げて、驚かす程度。 「うわあああああああああああああ!!」 「ゆあああああああああああ!!!?」 ある時は、れいむが食事中の時に大声を出した。 「うわああああああああああ!!!」 「ゆやああああああ……ゆげっ、ゆげほっ! ゆげふぉっ!!」 ドライフードが喉につっかえ、咳き込むれいむ。その後で、散々小言を言われたのは想像に難くない。 「しーしー、すっき」 「うわああああああああああああ!!」 「ゆやあああああああああああああ!!? ゆぼぼぼぼ!!」 用を足している最中に驚かしたものだから、れいむのそれから排出される液体が、ひっくり返った事によって、れいむ自身の顔に降り注いだ。 ひっくり返った拍子に後頭部もとい、背中を糞尿に密着させる事もあった。れいむは、汚物と恥辱に塗れたせいか、しくしくと泣くだけだった。 またある時は、れいむが深い眠りに落ちているときに大声を上げた事もあった。 「ゆぴ~……ゆぴ~……」 「うわああああああああああああああ!!!」 「ゆぴひゃあああああああああああああ!!? ゆっ!? ゆ!? ゆぎいいいいいいいい!!!」 深い眠りを妨げられたと気付いたれいむは、悔しさに歯軋りをしながら、叫び声を上げた。 それらを何度も繰り返す内に、れいむの頬は痩せ、目の下には隈(くま)を作っていた。未だ、一週間しか経過していない。 「むーしゃむーしゃ……」 食事中のれいむに、私は尋ねた。 「れいむ、そろそろ限界か? 今、諦めるなら番も無いが、今まで通りの生活ぐらいなら許してやるぞ?」 「むーしゃむーしゃ……」 憔悴したれいむからは、何の返事もなかった。それは、驚愕生活を続行するという意思表示でしかなかった。 「そうか、分かった」 「……むーしゃ、むーしゃ……」 一週間が過ぎて、私は少々思い悩んでいた。突拍子もなく叫ぶのはいいのだが、それだと単調でしかない。 れいむは確かに窶(やつ)れた。しかし、今となっては大声を出しても何の反応もない。ただ、一瞬だけ震えるのだ。 一応ながら、効果はあるだろう。だが、大した反応も得られない上に、れいむは大声に少しずつではあるが慣れ始めている。 となれば、爆竹でも使うほかないだろうというのが、私の考えである。 「ゆぴぃ……ゆぴぃ……」 寝入ったれいむの側に、私は爆竹を撒き散らして、導火線に火を付けた。途端にバチバチという激しい音がして、一分程それが続いた。 「ゆびびびびび、ゆびいいいいいいいいいいいいい!!!」 爆竹の破裂音にあわせて、れいむは断続的に叫び声を上げた。爆竹が全て鳴り終わると、れいむは一層大粒の涙を流して泣き声を上げた。 「ゆっびいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」 睡眠時。 「ゆびぎゃあああああああああああ!!!」 食事時。 「むーしゃむーぶびぎゃあああああああああああ!!?」 排泄時。 「ゆびびびび、ゆぶりいいいいいいい!! ゆっ……ゆっ……」 たまに大声と併せて爆竹を鳴らす。 バチバチバチバチ。 「うわああああああああああああああああああ!!」 「ゆやあああああああああああああああああああああああ!!!!」 如何なる時も、突発的に、散発的に爆竹を鳴らした。その度にれいむは慌てふためき、驚き、涙を流した。 れいむはますます窶(やつ)れていった。 充血した目に瞼を垂らしながら、終始眠たそうに、口元はだらしなく開き、歯を見せながら涎を垂らしている。 しかし、それでも二週間を迎えたばかりであった。一ヶ月というのが約束であるから、約二週間の期間が残っていることになる。 「れいむ、そろそろ辛いんじゃないか? 諦めようか?」 「だんなざん……だんなざん……おぢびぢゃん……おぢびぢゃん……ゆ゙……ゆ゙……」 番と赤ゆに対する欲求、バイタリティは凄いものだと感じた。自らが欲するものならば、どこまでも墜ちて、ゆっくりとは耐える生物なのだろうか。 いずれにせよ、ギヴアップの声は聞かなかった。約束通り、あと二週間は驚愕してもらおう。 しかし、爆竹を鳴らすのも飽きたものだ。効果覿面であることに違いはないのだが、如何せんこちらまで耳鳴りがしてくる。 ならば電気を使うべきだろう。世にはテーザーなる、鎮圧用のスタンガンがある。私は、文明社会に感謝した。 「ゆっびいいいいいいいいいい!!!?」 素っ頓狂な声が聞こえてきた。私がテーザーを、れいむに向けて発射したせいだ。五万ボルトの電圧が、れいむの体を駆け巡っている。 「どうだ、びっくりしたか?」 「もはやびっぐりじゃなぐで、ぎゃぐだいだろうがあああああああああ!!!」 「そりゃそうだ!」 「おいいいいいいいいいいいいい!!!!!」 骸骨が喋っているようで、何だか気持ちが悪かった。それから結局、大声と爆竹でれいむを驚かし続けた。 れいむは骨と皮というよりは、皮と皮だけになりつつあった。それでも耐え続け、約束の日まで後一日となった。 私はペットショップでまりさを購入すると、れいむの前に突き出した。 「ゆゆ……ゆ! まりさはまりさだよ! ゆっくりしていってね!」 「ゆぐ……ゆぐ……ようやぐ……やっど……ゆっぐじ、ゆっぐじじでいっで」 バンッという音と共に、まりさが爆裂した。皮と餡子が四散し、帽子の欠片がヒラヒラと空中を舞っている。 「ゆ、ゆやああああああああああああああああああああああああ!!!!?」 「どう、びっくりした? 余った爆竹を巻き付けておいたんだけども」 「ぼ、ぼうやべでええええええええええええ!!!」 れいむはまりさの目玉を顔に引っ付けたまま、涙を流していた。 そしてとうとう、約束の日がやってきた。私はこれから、一ヶ月前の日々が再びやってくるかと思うとゲンナリせずにはいられない。 とはいえ、約束は約束であるから、守らねばならない。ペットショップで再びまりさを購入すると、れいむの前に突き出した。今度は爆竹を巻き付けたりはしない。 「ゆっぐじ! ゆっぐじぃ! ゆっぐじじでいっでねっ!!」 「ゆ!? ゆ、ゆん……まりさはまりさだよ……ゆっくりしていってね……!」 「ゆっぐじいいいいいいい!! ずーり! ずーり!!」 「ゆゆっ……」 端から見れば骸骨が生首に頬擦りしているのだ。気持ちが悪くて仕方がない。 まりさはまりさで、異常なほどに痩せこけ、目がギラついたれいむに頬擦りされている事に青ざめていた。 それから再び一ヶ月が経った。れいむは以前の様にふっくらと肥え、まりさと番になり、赤ゆを儲けていた。 れいむの額にそびえる、緑の茎とそれにぶら下がった実ゆが、その証拠である。そして今、とうとう生まれようとしている。 「おちびちゃん! おちびちゃん、ゆっくりうまれてね!」 「おちびちゃんたちは、まりさがゆっくりさせてあげるからね!!」 ボタボタと何匹かの赤ゆっくりが、生まれ落ちた。プルプルと体を震わせて、目と口を大きく開いて云った。 「「「「ゆやああああああああああああ!!!? びっくちしちぇいっちぇにぇえええええええええ!!!?」」」」 「……ゆ?」 「ぞ、ぞんな……」 どうやら、私の行動によってれいむの餡子が大きく変質してしまったようだ。それからの生活は悲惨だった。 昼夜を問わず、突拍子もなく大声を上げて、親ゆっくりを驚かせる赤ゆ達。れいむもまりさも、次第に頬が痩け始めてきた。 「「「びっくちしちぇいっちぇにぇ!!!」」」 「ゆっ……ゆっ……」 「どぼじでごんなごどに……」 「ゆひゃああああああああああああああ!!」 「「ゆうううううううううううう!!?」」 捨てたり殺すまでもなく、どうやら勝手に死んでくれそうだ。私はその事にひどく、ほっとした。 終 ポマギあき
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【検索用 Pale 登録タグ 2020年 MIMI P VOCALOID YouTubeミリオン達成曲 toai 佐藤主税 初音ミク 曲 曲英 殿堂入り】 + 目次 目次 曲紹介 歌詞 コメント 作詞:MIMI 作曲:MIMI 編曲:MIMI MIX・マスタリング:佐藤主税 イラスト:toai 唄:初音ミク 曲紹介 曲名:『Pale』 歌詞 じゃあね グッバイ淡く溶ける様に 夢を見る夢を見る なんにもなんにもない様に ふわり酔うだけ ただグッナイ独りだけの夜に 夢を見て夢を見て なんにもなんにも無い様で 漂うだけ 夕暮れに転がる 反省会のように ねぇこのまま今日は 何も言わないで 階段をみつめて そこに立っていた 通り過ぎる様に 月が照らしてた 君がくれた思い出の欠片 グッバイ淡く溶ける様に 夢を見て夢を見て なんにもなんにもない様に ふわり酔うだけ ただグッナイ独りだけの夜に 夢を見る夢を見る なんにもなんにも無い様で 漂うだけ 考えては遠く分からないことだね 嗚呼やっぱり今日も少し弱かったな なんて息をする君は歌うように そう このままどうか導いていってよ 泣いてないよ咲いた夜に 寂しくて寂しくて 爛天一等星 僕を連れて行ってよ ずっとこのままで良くて 抱きしめて抱きしめて 感情ふたつを置いてって そこに居てくれ グッバイ淡く溶ける様に 夢を見る夢を見る なんにもなんにもない様に ふわり酔うだけ ただグッナイ独りだけの夜に 夢を見て夢を見て なんにもなんにも無い様で 漂うだけ コメント 好きすぎる...! -- 名無しさん (2020-12-11 19 30 05) 絶対伸びる(確信) -- 名無しさん (2020-12-29 06 50 45) この曲めっちゃ好きです!! -- む (2020-12-30 02 48 18) ノリノリ -- うp (2021-04-14 15 47 02) MVもめっちゃかわいいし、歌詞がめっちゃいい!!!大好き! -- にろ (2023-01-06 14 26 03) 名前 コメント
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相手の誕生日評価 自分の誕生日通常 遅れてプレゼント 元日が誕生日 相手の誕生日 友好以下 ○○(花椿さん、いるかな。……あ、いた!) ○○「花椿さん!」 花椿「バンビ!もう、どうしたの。急いじゃって。」 ○○「ふふっ。誕生日おめでとう!これ、プレゼント。」 花椿「あーもう、そんな仕草で渡されるとさー。キュンときちゃう♡」 ○○「ね、開けてみて?」 親友以上 ○○(花椿さん、いるかな。……あ、いた!) ○○「花椿さん!」 花椿「愛しのバンビ~。待ってたよ!」 ○○「え? ……あ、もしかして期待されてる、とか?」 花椿「もっちろん! バンビに言われないと、実感わかないな~?」 ○○「ふふっ、もう。誕生日おめでとう! プレゼントもあるよ。」 花椿「ありがとう! ね、ね、開けていい?」 ○○「もちろん!」 評価 ◎のプレゼント 花椿「もう、完璧! バンビのセンスって、アタシ大好き!」 ○○(やったー、バッチリ喜んでもらえたみたい) △のプレゼント 花椿「わぁ、ありがと!大事に使うね!」 ○○「(わりと喜んでもらえたみたい)」 ×のプレゼント 花椿「……ありがと。アタシ……試されてる?」 ○○「(うーん、あまり喜んでもらえなかったみたい)」 自分の誕生日 通常 自宅 〇〇「はーい。」 花椿「バンビ〜!会いたかった!」 〇〇「花椿さん。どうしたの?」 花椿「決まってるでしょ!今日はバンビの誕生日。おめでと♡」 〇〇「わぁ!覚えててくれてたんだ。」 花椿「もちろん!これ、受け取って。」 〇〇「え……プレゼントも?ありがとう!」 花椿「今日渡したかったんだ。中身すぐ開けてみて!じゃあね、チャオ!」 校内 花椿「バンビ! もう、探しちゃった!」 ○○「あ、花椿さん。どうしたの?」 花椿「どうしたのじゃないの。誕生日でしょ! おめでと♡」 ○○「わぁ! 覚えててくれてたんだ。」 花椿「とーぜん! あとは、これも。」 ○○「プレゼントも? ありがとう!」 花椿「気に入ってくれると思うよ。じゃあね、チャオ!」 お出かけ後にプレゼント 花椿「あ、そうだバンビ!」 〇〇「えっ、なに?」 花椿「じゃーん、プレゼント!誕生日おめでと♡」 〇〇「覚えててくれたんだ。ありがとう!」 花椿「気に入ってくれると思うよ。じゃあね、チャオ!」 遅れてプレゼント ※イベントと誕生日が重なったりした場合 自宅 ○○「はーい。 あ、花椿さん。どうしたの?」 花椿「バンビ~! 遅れてごめん、忘れてたわけじゃないの!」 ○○「?」 花椿「誕生日、おめでとう! あとプレゼント、受け取って。」 ○○「わぁ、覚えててくれてたんだ。ありがとう!」 花椿「喜んでくれたら、うれしい。じゃあね、チャオ!」 校内 花椿「バンビ〜!」 ○○「花椿さん。どうしたの?」 花椿「ごめん! 遅くなっちゃった。誕生日、おめでとう!」 ○○「覚えててくれたんだ!」 花椿「もちろん! プレゼントもあるんだから。」 ○○「わぁ、ありがとう!」 花椿「開けてみて。じゃあまたね、バンビ!」 元日が誕生日 〇〇「はーい。」 〇〇「あ、花椿さん!」 花椿「バンビ!遅くにごめん!」 〇〇「いいけど、どうしたの?」 花椿「どうしたもこうしたも……コレを言わないと、アタシの新年は始まらないの!」 〇〇「?」 花椿「誕生日、おめでと♡あとは、プレゼントもね。」 〇〇「わぁ、ありがとう!覚えててくれてたんだ。」 花椿「もちろん、忘れるわけないもん。じゃあね、チャオ!」
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554 :1/2:2010/01/02(土) 09 45 44 ID fdrIIMYw (自炊)ツンデレに明けましておめでとうって言ったら 『さむっ…… 洗い物してたらすっかり体が冷えてしまいました。早くこたつに入らないと』 「あ、姉さん。明けましておめでとう」 『え?』 「いや、もう12時過ぎたからさ」 『あ、そうですね。明けましておめでとう、タカシ。と言っても余りおめでたくありませんけど』 「は? おめでたくないって何で?」 『だって、タカシの顔を見ながら年越しなんて、おめでたいわけないじゃないですか』 「新年早々から毒舌かよ。てか、毎年の事じゃん。何を今更」 『ええ。ですから私は、おめでたいお正月なんて一度も迎えた事はありません』 「はっきりと言い切ったね。この姉は」 『だってどうして、この顔見て、おめでたいお正月だなんて言えると思います? 有り 得ないでしょう?』 「わかったよ。なら、俺は姉さんが不幸にならないように、部屋でゲームでもしてるよ。 大晦日なんだし、今日くらいは夜遅くまで遊んでてもいいだろ?」 『ダメです』 「そんなケチ臭い事言うなよ。いいじゃん。年末年始くらいさ」 『ダメです。ゲームがダメとは言いませんけど、こたつから出ちゃダメです』 「何言ってんだよってつめたっ!! 何だこれ? 姉さんの足か?」 『食器洗いしてたら、冷え切ってしまいましたから。タカシには湯たんぽがわりになって貰います』 「こたつから出るなってそれでか。つか、めっちゃ冷たいんだけど」 『我慢しなさい。誰のおかげで豪華な夕食が食べられたと思っているんですか』 「そりゃ、稼いでくれてる親父のおかげ……って冷たい冷たい冷たい!! 両足で包み込 んでスリスリすんな」 『私が作ってあげてるからでしょう。そういう意地悪い事言っていると、朝のお雑煮は無しですよ』 「わかった、わかったから。全くもう……我慢すればいいんだろ」 『分かればいいんです。んふふっ♪ 暖かくて気持ち良いですね』 「さっきまで、めでたくないとか言ってたクセに、めっちゃ幸せそうな顔してるよこの人」 『仕方ないでしょう。この気持ち良さには勝てないんですから』 「でさ。姉さん」 555 :2/2:2010/01/02(土) 09 47 26 ID fdrIIMYw 『何ですか。文句なら受け付けませんよ』 「いや。何で足がだんだん上に上がって来てんのかなーって思って」 『足先の温度だけだと物足りなくなって来たので。文句は言わせませんからね』 「わかったよ。もう好きにしてくれ」 『(年明け早々からタカシといちゃいちゃ出来るとか、幸せですね……フフッ……)』 『いっそこのまま足を奥に伸ばして行って、タカシのア……アソコを…… ここが一番熱いの……とか。って私ってば新年早々何を変態な妄想してるんだろ……はぅ……(/////////)』 終わり 規制中なのでこっちで
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私のやんごとなき王子様 6日目 外は快晴、気分も上々。そんな今日も皆忙しく仕事をしているんだろう……いや、別に私が暇なのかというと全然違って、忙しい。 何故なら昨日に引き続き今日も医務室で仕事をしているからなのだ。 だけど、 ーーーどうして今日も鬼頭先生いないのよっ!? 朝食後にミーティングをして、その後医務室の手伝いをするように真壁先生から仰せつかったまでは良かった。問題はその後。鬼頭先生ったら昼前に 「ちょっとトイレに行って来る」 と言い残したきり帰って来ない! 私は午後から交代でやって来る生徒を心待ちにしながら、医務室から見える海に向かって愚痴をこぼした。 「どうして鬼頭先生に関わるとろくな事がないんだろ。いっつも私の事馬鹿にして遊んで、仕事まで押し付けて一人でどっか行くなんてちょっと酷いと思う!」 残念ながら探しに行く暇がないので一人でやるしかない。 文句を言った所で鬼頭先生の性格が劇的に良くなるとは思えないし、生徒指導を選んだのだからどんな仕事でもしっかりやらなきゃとは思ってるーー思ってるけど、やっぱり何だかすごく損してる気がする。 真壁先生も真壁先生だわ。どうして他にも生徒がいるのに鬼頭先生の手伝いに私を指名するかなあ。 「先輩荒れてますね」 「わっ、ごめん!」 完全に現実逃避していた私は、指を切った後輩の傷の手当をしていたことをすっかり忘れていた。 苦笑する後輩の指に絆創膏を貼り、申し訳ないと頭を下げる。 「今の愚痴は聞かなかった事にして?」 「別に言いませんけど、鬼頭先生って先輩の事からかったりするんですか?」 質問されて私は顔を上げ、つかみかかる勢いでその男の子に答えた。 「そうなの。んもう顔見る度に憎まれ口なんだよ!」 「ははっ、それって先輩の事が好きだからですよ」 後輩の言葉に私は自分を見失いそうになった。 「ーーはい? え? なんですって?」 思わず聞き返す。 「男って生き物は不器用ですからね。特に鬼頭先生みたいなスマートでクールな感じの男って、素直に思ってる事を口にしたりするのが苦手だと思いますよ」 俺も小学生の頃は好きな子にちょっかいだしてましたし。と言って後輩は笑った。 「それじゃあ鬼頭先生は小学生レベルって事?」 「ははは! 本当だ。あ、俺がそんな事言ったなんて言わないでくださいよ。それじゃあ、手当ありがとうございました」 そう言って医務室を出て行った。 私は考えた。確かに素直じゃないっていうのは私もそう思うし、納得だ。だけど、先生が私の事を好き……っていうのはちょっとねーー 「ーーいやいや、いくらなんでもそりゃありえないでしょ」 鬼頭6日目・No.2へ 一つ戻る鬼頭5日目・No.3 ブラウザを閉じてお戻りくださいv 私のやんごとなき王子様トップへ戻る
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826 名前: NPCさん 04/06/05 03 22 ID ??? 軽いジャブ程度の話な上、実際に卓に入ってた訳ではないのだが… 数年前とあるサークルに居た頃、先輩達が「熱血専用!」のキャンペーンをやっていた。 俺は自分の卓も終わって、当時新作だった「熱血専用!」に興味もあったので 様子を見ていたんだが…… ・今でいう「シーン制」っぽいプレイだったのだが、ほとんどGMとPL1人のマンツーマンでの プレイで、他のPLは各々勝手な事やって、GMとシーンPLの話なんざ聞いちゃいねぇ。 ・話聞いちゃいねぇPLの数人は、自分達のキャラを使ったコマ漫画をニヤニヤしながら 描いていた。自分たちの冒険を綴った物とかなら分かるが、実際のセッションとは関係ない 自己満足の同人誌レベル。内輪なギャグ満載で、無理矢理見せられて鳥肌立った。 ・ちなみにその時のセッションは、始めにマンツーマンでやっていたPLのみのセッションで、 他のPCは一切登場無し。話を聞くと、毎回そんな感じらしく「ここ2回ほど話が回って 来ないなぁ」なんていう人も居た。 …まぁこれだけなら、目眩はするが「ああ、そういう楽しみ方もあるのね」で、自分も 納得するのだが… [続く] 827 名前: 826 04/06/05 03 23 ID ??? [続き] そんなセッションも終わり、帰りにその先輩達と一緒に食事に行く事になったのだが、 そこでの話題は終始「そのキャンペーンに参加してるとあるPLおよびPCの悪口」だった。 兎に角気持ち悪い。あいつとは絡みたくない。邪魔だ。とっとと殺して別のPL募集するか …そんな話をずっとしている。勿論、話題の中心たるそのPLはその場には居ない。 っつーか誘われてない。 それからも何度かそのキャンペーンを成り行き上見学する事はあったのだが… 傍目から見ても皆からハブにされてるそのPC…というかPLへの仕打ちは、酷かった。 自分も何度か「中途参加でも大丈夫ですよ」なんて言われて誘われたりもしたが、 内心「冗談じゃない」と思いながらやんわりと断り続けた。 まぁ、その後自分も別のキャンペーンに入ったり、MTGなんかもやったりして そのキャンペーンの末路はよく知らないのだけど…話を無駄に膨らませすぎて 頓挫したとかそうでないとか…。 あんまり面白くも、困ったちゃんな話でもなく、しかもオチもなくてスマソ。 839 名前: 826 04/06/05 04 12 ID ??? せっかくだからもう一つ。 これは俺の友達からの口伝なのであやふやな部分が多いのだが…またその先輩達の話。 「エルジェネシス」をプレイしたらしいが、他のPCがどれもこれも「暗殺者」だとか「孤高の戦士」 とか、絡みづらい奴らばかり。この時点で俺の友人は「ヤバイ」と感じて、皆をとりまとめるような キャラ設定にしたらしい。 で、セッションが始まったのだが…予想通りみんなバラバラに動き、他のPCと絡む気ゼロ。 俺の友人だけが孤軍奮闘して接触しようとしても、箸にも棒にもかからない態度。 もうダメダメなPCな上…シナリオは領主の舘および宝の警護だったのだが…GMも、 「それじゃあ宝の警備につきます」と宣言した友人の言葉を聞きながら、その直後のシーンで 「警備兵は全て倒され、宝は奪われたようだ」の一言。「ちょっと待ってくれ!俺、警護に ついてたんだけど!?」という友人の言葉に「ああ、それじゃあ君もやられて気絶してた事で」 …何が何でも宝が奪われないといけないシナリオだったのかもしれないが、流石にこれを 聞かされた時には絶句した。 [続く] 840 名前: 826 04/06/05 04 14 ID ??? [続き] …まぁその後、色々あって戦闘シーン。ちなみにまだPC同士は知り合ってすらいない。 当然、友人は「だったら誰が敵かなんて分からないだろうな」と、他のPCを警戒しつつ 敵と戦う為の術を模索。 だが他のPCは、まるで古くからの戦友であるかのような素晴らしいコンビネーション! 当たり前のように今初めて出会った暗殺者に支援魔法が飛び、 当たり前のように先程まで胡散臭そうに見ていた戦士の傷を癒す。 当然、友人にも当たり前のように「カバーを頼む!」という指示。 …その後、もう1回ラストの戦闘があったらしいが…当然その時も知らない人同士が 互いに知らないまま絶妙のコンビネーションを繰り出すという奇妙奇天烈な戦闘だったらしい。 で、知らない人同士のままシナリオ終了。狐につままれたような顔をしてるのは 俺の友人だけで、他のメンバーは大満足顔。 「でもまぁ、面白いもの見れたと思えば…」と、今では友人は笑って言うが… …ノリやロールプレイだけで成り立たせてるような奴らなら、こんな事は起きないと俺は思うのだが… 結局、駄目な奴は何やっても駄目かと。 842 名前: パペッチ☆ポー 04/06/05 04 27 ID ??? あー、昔、知人がGMしてた女神転生の単発セッションでも、似たような事があったの思い出した。 それまで話振っても誘導しても、一切本筋に絡んでこようとしなかったPCが、 ラストバトルになるや、現場に颯爽と現れて、面識も無い筈のボスをボコボコにしていったという…。 スレ18
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【検索用 せいなんてなくたって 登録タグ Mew せ オリジナル曲 傘村トータ 星野レイン 曲せ】 + 目次 目次 曲紹介 歌詞 こちらのページは 架空の曲のページとなっています。 作詞:星野レイン 作曲:星野レイン(傘村トータ) 唄:Mew 曲紹介 曲名:『生なんて無くたって。』(せいなんてなくたって。) 久しぶりにまともな曲を作ってみました。(作者コメントより転載) 歌詞以外傘村トータ氏の「晴天を穿つ」と全く一緒だが、星野レイン氏は盗作を否定している。 歌詞 美しさって 内面から滲み出るものだから だから だからこそ見た目じゃない 内面を磨くこと 日々の意識 難解な言葉 言い回し 美しく話すことが私にはできない できない だからこそ誰にでもわかりやすく 伝えること 意識すること 誰にでも伝わっていく あなたの魅力が 最大限に表現される あなたののサポート あなたの目標を達成できるように 生きやすい環境にしてあげたかった 困っていないか気を配り 何か改善できることはないか 私には分からなかった 死に物狂いでがんばっている 成果が出ずに悩んでいる がむしゃらに飛び込んで成果を出している 真摯に向き合うこと 私自身も大きくできた 生なんて無くたって、私は成長した 生なんて無くたって。 こちらのページは 架空の曲のページとなっています。
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泣かないで、泣かないで、笑って! 第2話 照りつける暖かい日差しと、それに反したひんやりとした冷たい風。 夏季に入り、連日猛暑が続いているのだが妙に涼しい。 時折吹き抜ける風が周囲の気温を下げているのか、あるいは丘の下に広がる透き通った湖が熱を気化しているのか、おそらくはその両方であろう。 小高い丘には草原とゴツゴツした岩と所々に生えた針葉木しかない。 そんな自然の芸術で形成された風景に、につかわしくない人物が紛れ込んでいた。 「ふぐぅ…」 男が仰向けに倒れている。 赤いタンクトップに黒いジーンズ、黒く長い髪は適当にはねており、前髪だけ癖になっているのか目元で分かれている。 筋肉質では無いが、身体は引き締まっていて、顔立ちは悪くは無いが、特別良いと言えるほどでもなくこれといった特徴が無いのが特徴であった。 男の周囲には投げ出されたままの状態のギターケースが転がっている。 いつからそこにいたのか、男自身にもわからない。 男は太陽の眩しさから目をそらすように体を横に転がした。 「……」 冷えた風が吹き抜ける。 無意識に身体を丸め、男は体温を保持しようとする。 しかし二度三度と襲い来る寒波に、男は耐え切れず、薄く目を開いた。 最初に男の目に入ったのは一面の若草の緑。 続いて、ヒノキだかスギだかよくわからないところどころに生えた針葉樹とこぶし大から男の背丈ほどもある岩。 立ち上がってみると、高台になっていたらしくそれほど離れていないところに針葉樹の森と、反対側の丘下に大きな湖があった。 「……ふぁ」 未だに寝ぼけているのか、男は現実感の無い風景をあっさりとうけとめた。 そよそよと頬を撫でてくる風が気持ちいい。 男のまどろんだ脳が冴え始めてくる。 それと同時に生じてくる違和感。 なぜここにいるのか、と男の頭に浮かび、家に帰った事も覚えてない、と男は考え、むしろ帰ってたっけ、と男に疑問が生じ、これは夢だなと男は結論付けた。 思考は一瞬。 そして男は両足を投げ出して地面にへたりこんだ。 「……んなわけねーじゃん」 太陽は変わらず眩しかった。 どーしよっかなーっとふざけた様に呟き、およそ真剣に見えない顔で白痴の様に呆けていた男は、ふと気づく。 「っ、携帯!」 男は慌ててジーンズのポケットに手を突っ込んだ。 心情では相当焦っていたのかその行動は素早い。 労せず触れる硬質の感触。 ジーンズから携帯電話を引っこ抜き、液晶画面を確認する。 暫く携帯を凝視していた男は視線を外し、仰向けになり空を見上げた。 「……お約束だよな」 携帯の電波は圏外を示していた。 携帯を仕舞い、男はふて腐れた。 「どこなんだろ、ここ……」 寝そべりながら呟く。 頬に触れる若草がこそばゆかった。 どれ程の時間が経ったのかわからない。 男は体を起こした。 景色は相変わらず森と山と湖。 携帯電話の画面で時間を確認すると、先ほど確認した時間から二時間ほど経過していた。 こんな見ず知らずの安全っと決まったわけでもない場所で無駄に時間を使ってしまった自分の神経の図太さに、男は頭を抱えた。 ひとしきり己の馬鹿さ加減についての後悔を終えた男は、投げ出されていたギターケースを手に取る。 おもむろにケースを開き、アコースティックギターを取り出す。 「げっ……弦が切れてやがる」 五弦目の弦が千切れ飛んでおり、羊司は相棒の無残な様子に軽く凹んだ。 ギターケースにしまっていた替えの弦やピン抜き、ニッパーなどを取り出し弦交換に移る。 何度も弦を交換してきたのか、その手順は鮮やかである。 程なくしてギターが元通りになる。 「調律は、と……」 何度か弦を弾き、音がずれていないか確かめる。 チューナーが無いのが痛いが、高校時代から愛用していた楽器だ。 完璧とは言えなくてもある程度はわかる。 調整は終わり、何度となく練習した得意のフレーズを引いてみる。 慣らしていないので少し五弦が強いが、仕方が無い。 次第に気分が高揚し、抑え目に弾いていたギターを鳴らす音量も大きくなっていく。 明るい曲、悲しい曲、楽しい曲、寂しい曲。 手馴れた様子でギターを操り次々と曲を変え、男は気付かないうちに声を出し、歌いだした。 歌うことが好きだった男は高校一年の時からプロのミュージシャンを目指している。 親には大学に進学して就職しろと反対され、友人には無謀だやめておけと止められた。 周囲の人間の態度に嫌気が指した男は、卒業して家を飛び出した。 幸い高校時代に無駄遣いせずに貯めた貯金で安いアパートを借りることができ、男はバイトとギターの練習で日々をめまぐるしく過ごしている。 日々研磨し努力した賜物か、男の声は周囲によく響いた。 そして、その歌声に惹かれるものが一人。 灰色の外套姿で、フードを目深に被っている為、男か女か区別がつかない。 周囲の木と岩影に隠れながら少しずつ近づいてくるが、あまりにも隠れ方がお粗末過ぎる。 とはいえ、見ているとなかなか面白いので男は気づかない振りをしながらギターを弾いた。 男はそろそろいいかなと思い、楽器を鳴らす手を止める。 木陰から飛び出そうとしていた矢先、音楽を止められ、間抜けな姿で静止する。 その距離およそ10メートル。 外套を着た者と男の視線が重なる。 「あ、あぁ……」 少女特有の高い声。 男の心の中で前面の外套の中は年若い女の子と結論を下した。 「あの……」 黙っていても仕方ないと思い、声をかけようと一歩踏み出す。 その瞬間少女は脱兎のごとく逃げ出した。 「わっ、待ってくれ!」 ギターを置き、起伏にとんだ丘に足を取られながら、男は慌てて追いかける。 「っ! 来ないでっ!」 少女は振り返り、男が追いかけてくるのを見て涙声で叫んだ。 「来ないでっ、追いかけて来ないでっ!!」 「頼む、何もしないから逃げないでくれ!」 静止する声を無視し、少女は逃げる。 「なあっ、ここは何処なんだ!?日本だろ!?」 「違いますっ、来ないでっ!!」 少女の答えに納得できず、男はさらに声を荒げた。 「そんな訳ないだろっ! あれかっ!? 北朝鮮か!? 拉致かっ!?」 「知らない、知らないっ!」 必死で男も追いかけるが、一向に距離は縮まらない。 凹凸の激しい丘を、少女は全く速度を落とさずに駆け下りる。 自分より華奢で小柄な少女を、声を上げ追いかける自分の姿はどう見ても変質者だと思い、男は泣きたくなった。 少女はマントを大きくはためかせ、もう二度と振り返らずに走っていった。 「待ってくれよ……頼むから」 丘を抜け、鬱蒼と茂った森の中で、男は息も絶え絶えに呟いた。 既に、全力疾走ではない。 落ちていた長い木の枝を杖代わりに歩いていた。 気温は低めだが、先ほどの鬼ごっこのせいでかなりの汗を掻いている。 べたついたシャツを鬱陶しく感じながら、時折つま先で土を削る。 道しるべ、のつもりだ。 「なんで……歌聴くときは寄ってくんのに……話し掛けたときは、逃げんだよ……」 苦しげに男は言う。 それにしても、と男は思う。 全力で走っている自分は、別段運動部に所属していたわけでも、特別に体力に自信があるというわけでもない。 学生時代と違い、確かに運動不足はいなめない。軽い筋トレぐらいはしているが、それも軟弱に見せない為の見せ筋を維持する為だ。 しかし、いくらなんでも15、6の少女に、足の速さで負けるほど身体も鈍っちゃいないだろう。 しかし、追いつけなかった。 少女の姿はとうに見失った。 別段勝利に固執する性格でもないが、やはり年下の少女に走り負けると言うのは悔しく感じる。 それでも少女の姿を追い求めるのは、流石に少女も追いつけなかったとはいえ自分と同じ様に体力も落ちて歩いているだろうから、もしかしたら追いつけるかも、と考えたから。 また、走っていった方向に少女はいなくとも、街か何かがあったら誰か住んでいるだろう、とも思ったからだ 「待ってくれてもいいだろうよ、あそこまで怖がられたら流石に俺も傷ついたぞ…」 沸々と理不尽に逃げた少女に対する怒りが募ってくる。 「逃げるぐらいなら近づくなっての。 声かけただけじゃんよ」 男も自分の言葉が理不尽と言う事はわかっている。 しかし言わずにはいられない。 「自分だって変な外套を着て、おかしいだろ……それな――」 突然男は愚痴を止め、身体を木に隠し息を潜める。 慎重に首だけを伸ばし、目標を確認する。 そして心の中で歓声をあげた。 見つけた、さっきの少女だ。 少女はブナの様な木の傍で、両足の膝を地面につけ何かを熱心に覗き込んでいる。 左手には外套に半分隠れているが、円形のザルの様な物を持っている。 男は声を殺して、回り込みながら静かに少女に忍び寄る。 少女は気付いていないのか、暫く木の根元を観察していると、思い出したかのように右手で土を掻き分け始める。 興味をそそられたのか、男が身体を横にそらし少女の手元を見ると、毒々しいイボ付きの赤いきのこがそびえ立つ様に生えていた。 少女はそれを嬉しそうに籠に入れる。 男の顔が引きつる。 少なくとも、こんな毒々しいきのこは自分なら絶対に食べない。 頭が錯乱するか、腹筋がねじれるほど笑い転げるか、下手をすれば死んでしまう。 声をかけるか、否か。 声をかけなかった場合、殺人補助になるのだろうかと男は悩む。 流石に人道的に問題があるだろうと思い、男は少女の肩に手を伸ばす。 声をかけて、逃げられるのはもうこりごりだった。 しかし、肩に触れる前に少女の顔を見て、息を呑んだ。 男が驚くほど少女の顔は整っていた。 ふっくらとした唇、現役のアイドルも羨む様なすっと長い鼻立ち、見るもの全てを慈しむ様な穏和そうな目。折れてしまいそうな細い指を一生懸命動かし、土を掻き、キノコを引き抜く姿は、非常に微笑ましい。 ボロボロの外套に隠れてはいるが、時折除く髪は白髪と呼ぶにはおこがましいほどに美しく、ふわふわと波打っている。 「うわっ……超かわいい」 先ほどの少女に対しての批難する様な愚痴や危なそうなきのこの存在すら忘れ、男は知らず呟いていた。 「!?」 その瞬間、少女が小さな肩を竦ませ、男の方を向いた。その顔には明らかに恐怖の色に染まっている。 少女の震える指から籠が滑り落ちる。 底の浅い円状の籠から、男が見た事もない野草やまだら模様のきのこが零れ落ちた。 「あ、あぁ……」 迂闊だったとしか言いようが無い。 テントの方へ真っ直ぐ逃げてしまった。 男から完全に逃げ切ったと思い込んだ。 貴重な食料に気を取られ、男の接近を許してしまった。 少女は膝を地面につけた状態で外套を握り、身震いしながら自身の行動を悔やんだ。 少女が肩を震わせ、大きな目に涙を溢れさせる姿に、男は酷く動揺した。 「な、泣かないで! ちょっと道を知りたいだけなんだ! 教えてくれたらすぐに消えるからさ! 大声出して追いかけてごめん! 黙ってこっそり後ろから近づいてごめん! 謝るから泣かないで! あと、そのきのこは食べない方がいいと思うよ、うん!」 男は自分でも何を言ってるのかよくわからないが、ひたすら謝ってみる。 少女は何も答えない。 「本当にごめん! 怖いならもう少し離れるからさ、せめて逃げないで」 そう言って男は伸ばしたままになっていた腕を引っ込め、前を向きながら器用に後ずさった。 宥めて卑屈になって。 男はなぜこんなに必死になっているんだろうと思う。 ただ言えるのは、罪も無い女の子を泣かせるのはどうしてもごめんだった。 「本当に……何もしませんか?」 男の願いが通じたのか少女が顔をあげ、初めて自ら声を出した。 「しないしない、絶対に危害を加えないってば」 少女は男に対する警戒心が抜けていないのか、未だに顔を伏せている。 初めて会話への糸口が見つかった男は、必死で自身の無害さをアピールする。「ええと……さ、変な事を聞くようだけど、ここって日本だよね?」 男が少女の顔色を窺いながら、尋ねる。 脅かさないように、泣かせないように。 少女は幾分か迷いながら、答えた。 「……いえ、ここはフィルノーヴ。 ニホン、という国ではありません」 「いや、でも俺さっきまで日本に……っつーか東京にいたんだけど」 「はぁ……」 少女はよく意味を理解しきれていないのか、首を傾げ曖昧に相槌を打つ。 「こっちに来て目を覚まして、日付見ても一日やそこらしか経ってないから……あれ? 日本からブラジルまで24時間で行けたっけ?」 「よく、わかりません……あなたが何を言ってるのか……」 「まあ、どうみてもブラジルじゃなさそうだし、どうでもいいんだけど。 あー、つまり……ここってどこかな?」 「で、ですからフィルノーヴです」 「そんな国聞いたこと! ……いや、大声出してごめん。 泣き顔で怯えないで……」 「グスッ……本当です。 この土地はネーモアと自然に囲まれた大きな国です。 本当に……知らないんですか?」 男は頬を頭を掻きながら少女の言った単語を思い出そうとする。 フィルノーヴ、ネーモア、全く思い出せない単語に男は恥ずかしそうに質問した。 「あの……無知でごめん。 フィルノーヴ、とかネーモアってさ、本当に、何、かな?」 その言葉に今度は逆に少女が驚いた。 大きな目を見開いて、男の顔や服装、一挙一足を観察する。 少女の慌てた様子に、男は少女に呆れられていると勘違いし、自身の常識の無さを恥じた。 「えっ……まさか」 「ごめん、今度からちゃんと現代社会についても勉強するから……」 少女が被りを振る。 そして初めて申し訳なさそうに言った。 「あ、いえ……すみません。 ヒト……だったんですね」 少女の言葉に男は呆然とする。 そして次第に怒りも沸いてくる。 人だったのか、だと? どこからどう見たら人間ではないと思えるのだ。 人が下手に出ていればいい気になりやがって。 どうしてここまでコケにされないといけないのか。 馬鹿にするのもたいがいにしろ! そろそろ少しぐらい叱るべきなのかもしれない。 男は激憤に駆られた表情を隠そうともせずに少女を睨んだ。 男の憤怒の表情に気付いた少女は、恐怖の満ちた顔を涙で濡らした。 両手で胸元の外套を握り締め、まるで親に叱られる子供のようにきつく涙で溢れた目を閉じ、震えながら頭を垂れる。 その姿を見ると、男も怒る気力を無くしてしまう。 「はぁ……俺が悪かったから、そんなに怯えないでくれ。 あと、俺を人間扱いしてくれると嬉しい」 少女は上目づかいに男の表情を確認すると、首を小さく振った。 縦に、そして横に。 「……それで、フィル……なんたらとネルモアって?」 男にもう反論する気は無かった。 早く話しを済ませてしまおうとばかりに質問する。 「……フィルノーブは北寄りのオオカミやクマ、他にも多数の部族が多く住む土地で、森と山に囲まれた国です。 独自の集落の多いこの国は、その土地特有の果実や珍しいイキモノが数多く生息しています。 ネーモアはこの土地一番の大きな湖で毎年この時期になると珍しい赤い顔の白い鳥が群れを成して集まり、数多くの見物客で賑わ――」 「それで、この辺りで一番近い街は何処だ?」 少女の説明を遮り、男は最も知りたい事を確認する。 「なんでこんな国に居るのか、理由は後で考える。 とりあえず電話さえあったら日本の実家に連絡できるから」 「デンワって何ですか?」 「電話は電話だ。 んで、銀行に振り込んでもらって下ろして、飛行機で日本に帰る。ビサなら使えるだろ」 「ギンコウ? ヒコーキ? ビサ?」 少女は本気でわからないのか、首をかしげている。 男は次第に苛つき始めるが、表情を押し殺しながら尋ねる。 「すまん、遊んでいる暇は無いんだ。 とりあえず街はどこだ?」 「はぁ……ここから700ケート程南に行ったところにオオカミの集落がありますからそこに」 「舐めてる?」 「いえ、そう言われましても」 少女は困ったように頬を人差し指で掻きながら答える。 不機嫌そうな男に言うべきか言わぬべきか迷っていた。 意を決し、少女は口を開いた。 男の目から若干視線を逸らせながら。 「ええと、怒らないでくださいね。 あなたは帰ることが出来ないと思います」 「何だって?」 「ここは、いえ、この世界には貴方の言うニホンという国は何処にもありません」 森に静寂が宿る。 男は怒鳴り散らしたくなるのを堪え、少女に尋ねる。 「……冗談にしては面白くないぞ」 「本当です。私自身、始めて外界から来たヒトを目にしたのですから」 「よくわからない。 君は人間だろ?」 男は当然の疑問を口にする。 「ええ、私はニンゲンです」 ただしと口にし、少女は被っていた外套のフードに手をかける。 そして、フードを脱ぎ、隠れていた後ろ髪に手を入れ、サッと後ろに流す。 男は白というより銀に近いウエーブの髪をなびかせる少女に目を奪われた。 否、正確には少女の顔の横についているものに目を奪われた。 それは横に長く伸びた大きな耳。 「私はコリン・ルーメリー・ユイーフア。 普通の、ヒツジの女の子です」 男は声を失った。 頭が理解に追いつかない。 この世界に日本が無くて、そして自分はヒツジの女の子? 頭を掻きながら男は考える。 少女、コリン・ルーメリー・ユイーフアは佇みながら男の反応を待っている。 「ええっと……その耳、よく聞こえそうだね?」 結局、男には無難な話題を出すしかなかった。 「え、はい。 ヒツジですから」 「そっか。 羊か」 「はい、ヒツジです」 あははーっと声を上げ、お互い笑いあう。 そして男が笑顔でコリンに問う。 「ところでさぁ、どこからどこまでが本当?」 「全部ですよ」 コリンの答えに男はブチギレた。 「あーっ、マジですまんかった。 むしゃくしゃしてやった。 今は反省している」 男が髪を掻きながら、あまり反省してそうに見えない顔で謝る。 ビクビク怯えながらコリンは両手で頭を抱えてしゃがみこんで、本当ですかぁと涙声で言う。 その姿に怒鳴ってしまって悪いことをしたと思いつつも、心の片隅でもっと苛めてみたいと不謹慎にも思ってしまう。 「えーとだな。 とりあえず俺自身、正直半信半疑で君から聞いたことを纏める。 ここは狼の集落の近くで、羊が人で、この世界には日本は無いとかそんな風に聞こえたんだが、もう一度聞くぞ。 本当か?」 「は、はい。 正確に言えばウサギとオオカミの、若干オオカミの国側の大陸です。 ニホンという国は……ごめんなさい、本当に無いんです。」 男の嘘は許さんといった威圧する目にコリンは怯えながらも何とか言葉を紡ぐ。 腕を組む男の沈黙を続けろと受け取ったコリンは話を続ける。 「私はヒツジですが、この世界には様々な種族がいます。 先ほどから何度か言いましたオオカミやウサギ、クマなど多数の種族がいますがみんな人間です」 「ちょっ、ちょっと待ってくれ」 話を遮り、男は慌てた様子でコリンに問う。 「どうみても君、えーっと……コリンさんは人間だろ? 変わった耳飾りみたいな物をつけているだけだろう? 日本語を話しているし、その姿はどうみても人にしか見えない」 「いいえ、私はヒツジです。 この耳は飾りではないですし、私以外にもそれぞれの種族の特徴を持つ人間はいます。 それと私たちが話している言葉はこの世界の共通語で昔から使ってきました。 むしろ、なぜ貴方の言葉が私に通じるのか、それが全然わからないんです」 「……人って人間って事だろ?」 「うまく説明できませんが、ヒトは貴方です。 そして、人間は私たちなんです。」 男は自分の額を手で覆う。 理解しかけているが、理解できない。 そんな態度が現れている。 「今から貴方にとって非常に心苦しいことを言います。 その、怒らないでくださいね?」 コリンが言いづらそうに男に確認を取る。 慌てて男が顔を引き締める。 「落ちる、この世界に強制的にやってくる、という意味なんですが、この世界に貴方は落ちてきました。 外界から落ちてきた人間を私たちはヒトと言います。 ヒトがこの世界にやって来ることは稀で、落ちてきたヒトには一切の人権はありません。 つまり……ヒトと言うのは奴隷や家畜の別称なんです」 「はぁっ!?」 素っ頓狂な声を出し、男は少女を間の抜けた顔で見た。 「ヒトは奴隷という所有物ですから、傷つけ、苦しめ、壊しても罪には問われることはありません。 それと、私自身ヒトを見るのは初めてなのですが、ヒト奴隷はとても高価なものだと聞いた事があります。 人里に入れば確実に、貴方は捕まり売られるでしょう」 男の中で何かが崩れていく音が聞こえた。 何処にも行く当ては無い。 頼れる縁者もいない。 街を歩くことも出来ない。 住む当ても無い。 食べる事すらままならないだろう。 たった一人でこの世界をどう生きていけばいいのか。 「嘘だろ? なぁ……これって嘘だよな?」 男がコリンに詰め寄る。 コリンの両肩が強く揺さぶられる。 「いいえ……すみませんが……」 「帰る方法は……」 「聞いたことが……ありません」 コリンは首を横に振り、男の望みを絶つ。 男はこの世界に絶望し、いたずらな神を呪う。 悲観にくれる男の涙が少女の外套を濡らした。 「私と、一緒に来ますか?」 彼女は言った。 男は涙でくしゃくしゃになった顔を隠そうともせず、少女の顔を窺った。 「私は、一つの町へ定住することはせず、リャマのクトと一緒にいろんな国を旅して回っています。 いろんな国を調べたら、もしかしたら元の世界へ帰る手がかりが見つかるかもしれません。 もし宜しければ、一緒に、行きませんか?」 少女は震える身体を優しさで押し殺し、笑みを浮かべ男に言った。 不安なのだろうと男は思った。 この少女は怖がりだ。 おどおど辺りを窺って、何かに怯えて生きている。 この少女は泣き虫だ。 今日、初めて会ったのに何度泣かせたかわからない。 そしてこの少女は―――とても優しい。 少女の性格からして、ヒト、しかも男と話をするのは怖いだろう。 安全面からも、非力で高価なヒトと旅をするなんて危険極まりないだろう。 金銭面、生活面でも迷惑をかけるだろう。 少女の事を思うなら、一緒に行かないほうが良いに決まっている。 しかし、 しかし、それでも―― 「浅草羊司です。 よろしく、お願いします。 コリン様」 「こちらこそよろしく、おねがいします――ヨウジさん」 一人は、嫌だ。 私の住処へ案内します、とコリンは言った。 落ちた籠に山菜を詰めなおした後、落とさない様にしっかりと両手で持ち、フードを被り直した後、先導する様に歩き出した。 そして少女の数歩後を羊司がついていく。 辺りはかなり日が落ちており、夕焼けが世界を柔らかく包む。 「えーっと……コリン様」 足早に歩くコリンに羊司は、先ほどから懸念していたことを伝えようと声をかける。 「あのっ、ヨウジさん、私に敬語なんて使わなくても……」 表情は伺えないが、声質は困ったという感じが滲み出ている。 「あ、いや。 そう言わないとまずいと思うし」 「一応は主人ですけど、強制はしませんから……ただ、人前で気をつけてくだされば」 コリンが言うには基本的に自分、浅草羊司はコリン・ルーメリー・ユイーフアの所有物になるそうだ。 本人は酷い扱いをしない、敬語は使わなくていいと言っているが、人前だとどうしても建て前というものがあるので、その時だけ、奴隷としての行動を取ってほしいと言う事らしい。 どうも俺は過剰に意識していたらしい。 「あー、わかった。 人前では敬語で様付け。 でも今は敬語も様もいらないんだな?」「はい。 私は普通の、ヒツジですから」 なぜか普通を強調するコリン。 「よく意味がわからんが、わかった。 改めてよろしく。コリン」 「はい。 ヨウジさん」 微かに笑みを浮かべるコリンの姿に、羊司の頬がわずか朱に染まる。 「そ、そうだ、コリン。 ギターを丘に忘れたんだ。 取りにいかないとまずい」 表情の色を悟られたくない羊司は、慌てた様子でコリンに言う。 「ギターって、あのヨウジさんが弾いていた綺麗な音色の楽器ですか?」 「そう、それ。 雨なんて降ったらお釈迦だし、朝露にでも濡れただけでも相当やばいんだ」 頭を少し下げ、考え込むコリン。 しかしすぐに顔を上げ、わかりましたと了承し、先程の道に踵を返す。 「おおっと、その必要はないぜ」 「え!?」 「!?」 突如、羊司でもコリンでもない野太い声が周囲に響き渡り、一本の木の陰から二歩足で立つ、全身毛むくじゃらの狼が姿を見せた。 狼は上半身を黒い鎧を着て、麻の様な素材で出来たズボンに一振りの長い剣を刺している。 「ちょーっとばかし席を外している間におもしれぇ事になってやがるな」 「誰だ、あんた?」 羊司が身構え、警戒心を顕にする。 コリンは極度の人見知りと恐怖で震え、せっかく拾いなおした山菜の籠を取り落としている。 「んー、んー、んーー? 口の利き方がなってないガキだな。 せっかくお前の楽器を拾ってやったのによお?」 よく見ると羊司のギターケースが、巨漢の狼男の肩にかかっている。 羊司は驚き、礼を言おうと一歩前に出る。 「あ、すみませ――」 「まあ、俺が拾った落ち物だから俺のもんだがよぉ。 あと、目的ついでに目の前の落ち物も拾っておくか」 目の前の狼男が何を言っているのか羊司には理解できなかった。 目を瞬かせ、伸ばしかけた腕を止める。 「理解できねぇか? つまり、お前の物は俺の物。 さらに言うならお前は俺の物だって事だ」 羊司の背筋が凍る。 女に告白された事すらないのに、毛むくじゃらの身長がゆうに2メートルを超す狼男に告白されるとは。 どうすれば相手が傷つかず、なおかつ穏便に断れるか、羊司は必死で頭を巡らせる。 羊司の後ろではコリンが頬を染め、はっと何かに気付き、必死で頭を振っている。 「怖いか? 心配すんな、大人しくしていれば危害はくわえねぇ」 獰猛そうな顔に笑みを浮かべ、狼男は羊司に向かってにじり寄る。 「ええと、貴方の気持ちは大変嬉しく思いますが、俺は男でありヘテロなので、貴方の気持ちに応えられないというか近寄んなガチホモがとか思っちゃったりなんかして――」 「はぁ? 何をわけのわからん事を……」 脂汗を流す羊司にコリンはタンクトップを少し摘み、数度引っ張る。 「ヨウジさん、想像してる事はなんとなく理解していますが、多分羊司さんの考えている事とあの人の言っている事は違いますよ」 狼男に聞こえない様にコリンは言った。 「いや、でもさ……お前は俺の物ってどう考えても」 「ヨウジさん、貴方は物です。 つまりあの人は、貴方を手に入れて奴隷商人にでも売るつもりなんですよ。 あとギターも返す気も全然無いです」 羊司にもようやく合点がいった。 そしてゆっくり近づいてくる狼男を睨みつける。 「お前、俺を売り飛ばす気だったのか」 吼えるように羊司が狼男に言う。 狼男はニヤニヤと笑う。 「悪く思うなよ。 最近懐が寂しいもんでね。 あと、さっきも言ったように、おまえはついでだ。」 「ふざけんな! 誰がお前なんかに……」 言い切る前に狼男の膝が、羊司の腹にめり込む。 「ぐ、あ……ぅ……」 「少し黙ってな。 ボウズ」 5メートルの距離から一瞬で距離を詰められ、ろくに受身すら取れず膝をいれられる羊司。膝をつき激しく咳き込む羊司を無視し、狼男はコリンに近づく。 「い、いや……」 コリンは足がすくみ、悲鳴を上げることすら出来ない。 狼男がコリンににじり寄っている姿を羊司は苦悶に満ちた顔で睨む。 背中から突き刺さる弱々しい視線を軽く流し、狼男はコリンの前に立ちはだかる。 「さて、こいつはまあ思わぬ副産物だとして、本題はあんただ」 ヒターケースを放り出し、巨体の狼男の視線が鋭くなる。 「んな外套と人目につかねぇ道通るだけで誤魔化せると思ったか? オオカミの鼻舐めてんじゃねぇぞコラ」 狼男はコリンのフードを掴み、力任せに下ろした。 抵抗する暇もなく、少女の端正な涙に濡れた顔が顕わになる。 「ひっ……」 「自己紹介が遅れたな。 俺はゴズマ・ガンクォ。 誇り高きオオカミの国の戦士だ……とはいえ、城に仕えても乱暴すぎるって理由でたった二月で解雇されたがな」 オオカミの国の人間は基本的に粗暴だとコリンは聞いている。 しかし二月で城勤めを止めさせられるなど、いったいどれ程の事をしたのだろうか。 ブルブルと震えきつく目を閉じるコリンを笑いながら眺め、狼男、ゴズマ・ガンクォは話を続ける。 「傭兵になった俺はある日、妙な手配書を見た。 内容は、前年滅んだ自然公国ルブレーの美姫、コリン・ルーメリー・ユイーフアの身柄についての件だ」 そう言って、ゴズマは腰につけた小型の鞄から、巻物状に曲げられた紙を取り出した。 「ルブレーは滅び、王と后、その娘と息子の殆どが殺された。 だが、臣下に命がけで助けられ、崩壊する城から逃げおおせた姫もいた……わかるよなぁ?」 コリンの顔は既に蒼白になっている。 「コリン・ルーメリー・ユイーフア、生死を問わずワーグイシュー国、大臣、ハンムギーの下へ連れてきた場合……」 スルスルと紙を開く。 「40万セパタだってよぉ!」 そこにはコリンの顔が映っていた。 「全く俺はついてるぜぇ。 たまたま、その手配書を見た日に王女様の姿を見かけて、自分から人気の無い森に入ってくれて、さあ殺ろうと思った矢先、落ち物が現れた。 これも俺の日頃の行いの賜物だな」 下品に笑い声を上げるが、目は笑っていない。 「あ、あぁ……」 「どうした? 姫さん。 さっきからまともに喋ってねぇじゃねぇか」 ゴズマはコリンの肩に手をおき、顔を覗き込む。 「わ、わ、私は……」 「私は? 続きはどうした? 早く言えよ」 「私は……私自身、姫かどうか、覚えていない……」 「はぁ!?」 コリンの言葉にゴズマは素っ頓狂な声を出す。 これはコリンの苦し紛れの嘘だった。 人違いだったらもしかしたら見逃してもらえるかもしれない。 あまり要領が良いとは言えない頭でその場で考えた出まかせ。 しかしあまりにも稚拙な出まかせ。 「お姫さまじゃねぇのか?」 ゴズマはコリンの首袖を掴んで、詰め寄る。 コリンより圧倒的に背の高いゴズマが、少女の身体を軽々と掴み上げる。 「うぐっ……わからないんです……記憶が、無いから」 「何時からだ!!」 「は、半年前……」 「なんで手配書の人相書きと似てやがる!?」 「知ら、ない……」 「っちぃ!」 周囲の木に背中から叩きつけられ、コリンは苦しそうに言った。 喉を鳴らし、威嚇するゴズマの様子に、コリンの瞳から大粒の涙が流れる。 その涙を見て、ゴズマは動きを止める。 そして何を思ったか、しばらくの間涙を流すコリンを眺めていた。 「……はぁ、わかったよ」 急にゴズマが、疲れたようにコリンの首元から手を離す。 ズルズルと木に背中を擦りながら、コリンの身体が大地に触れる。 「けほっけほっ……えっ、あ……?」 突然離された手に、コリンは騙せたのかと思った。 「いや、本物か偽物かどうでもいい事を思い出しただけだ」 ゴズマの言葉にコリンの血の気が引く。 「死体に口無しってな。 姫さんじゃなかっても、そんだけ似てたらばれやしねぇだろ」 「そんな……」 「運が悪かったな、知らねぇ誰かさん……さあ、おしゃべりは終わりだ。 苦しまず殺してやる」 ゴズマは腰の飾り気の無い長剣を抜き、上段に構える。 「た、助け……」 「残念ながらそれは無理だな。 逃げられても困る……諦めて死ね」 コリンは涙を流し命乞いするが、無常にもゴズマの長剣が振り下ろされる。 コリンは死を覚悟して目を閉じた。 森に鈍い音が響き渡る。 「う……ぐ……」 コリンは迫り来る死の顎がなかなか訪れず、おそるおそる目を開く。 「この……ガキィ!」 「コリンに……手を出すな!」 コリンの瞳に羊司が荒い息を吐きながら、太い木の枝を持ってゴズマを睨みつける姿が見えた。 横合いから頭を強烈に殴られ、頭を抑えているゴズマの長剣は、コリンのすぐ隣を通り過ぎ大地に刺さっていた。 「奴隷の分際で舐めた真似しやがって……」 「うるせぇっ!」 羊司はもう一撃入れようと木の枝を振るう。 「舐めんな糞ガキ!」 ゴズマは利き手ではない方の腕で木の枝を防ぎ、長剣を離して空いた手で羊司を殴りつける。 「うがっ!」 ゴズマに派手に吹き飛ばされ、羊司は何度も地面を転がる。 転がるたびに地面に血の跡が残った。 樹木に背中から激突し、羊司は一瞬息が出来なかった。 「ヨウジさんっ!?」 コリンが巨体のゴズマの脇を掻い潜り、羊司の元へと走る。 「ゴホッ、痛ぅ……」 「大丈夫ですか、ヨウジさん!」 仰向けに倒れる羊司。 何とか起き上がろうとする羊司を気遣い、悲鳴に似た声を上げるコリン。 羊司はふらつく足で立ち上がりゴズマを睨み、殴られても放さなかった木の枝を構え直す。 「手癖の悪ぃ奴隷には、躾が必要だな」 痛みの残る首を何度か回し、ゴズマは地面に刺さった長剣を引き抜き、真っ直ぐと羊司とコリンの方へ歩いてくる。 逃げ出したい気持ちを抑え、羊司はコリンを庇うように立つ。 コリンは顔を上げ目を開き、驚いた表情で羊司の顔を見ようとするが、背中からでは羊司の顔を窺う事は出来ない。 「コリン……今から俺の言うことをちゃんと聞いてくれ……」 羊司はゴズマから視線を外さず、背中越しに小さな声で言った。 「考えてみれば意外だな。 なんでお前がそこの姫さんを庇う必要があるんだ? 奴隷になる事には変わりないし、もしかしてヒトごときが惚れたか?」 コリンを庇う羊司に興味が惹かれたのか、ゴズマはからかいを交え羊司に尋ねる。 羊司は枝を強く握り、言った。 「お前に言う、必要はねぇよ……」 「まぁ、それもそうだな。 大方姫さんに優しい優しい言葉を掛けられたってとこか」 羊司は黙ってゴズマの言葉を聞いていた。 「しかし、お前も運が悪ぃな。 あの姫さんに出会っちまったせいでお前も俺に見つかっちまった。 全部あの姫さんのせいだぜ?」 「コリンは悪くない」 羊司が声を押し殺して言う。 「他の誰よりもコリンに会えて良かったと思ってる。俺はコリンのことが――」 途端、コリンは一目散に森の中を走り出した。 羊司をその場に置きざりにして。 その後姿を見て、立ち尽くす羊司。 「はっはっは。 そうか、お姫さんは悪くないか。 お前のお姫さん、奴隷を放っぽって逃げちまったぞぉ?」 足音が遠ざかるが、ゴズマには自慢の鼻がある。 追うのは容易い。 「コ、コリン……」 「哀れだなぁ、おい。 信じた瞬間に裏切られてやがる」 「コリンは裏切ったりしない!」 「俺は間違いなくこうなると思ってたがね」 ゴズマはコリンの行動を半ば予想していたのか、笑いながら長剣を構える。 「さて、いい加減暗くなってきたな。 闇市が始まる頃だ。 お前を売った金で酒も飲みたいし、姫さんを追わんといけねぇから、さっさと終わらせるぜ」 羊司は距離を取りながら身構える。 「抵抗するだけ無駄だと思うがなぁ」 その距離15メートル弱。 先程羊司が不意打ちを食らったときよりも10メートル程長く離れているがゴズマなら一瞬で詰められるだろう。 「うっせぇ、駄犬!」 「あん?」 実力に完全に差が開いている今、抵抗しないことが羊司にとって最も良い選択肢であろうが、羊司は声を張り上げゴズマを挑発する。 「さっきから、マジでやかましいぞ、駄犬……首輪つけられて頭撫でられたく、なかったら、かかってこいよ!」 その言葉にゴズマの顔が引き攣る。 「俺はな、誇り高きオオカミの戦士だと言ったぜ……もう一遍言ってみろ糞ガキ!!」 羊司はしゃがみこみ、左手で足元の腐敗土を握り立ち上がる。 「狂犬病か……末期だな、頭どころか耳までおかしくなってやがる……」 オオカミである自分より力も体も圧倒的に劣っているヒトに馬鹿にされ、ゴズマは激怒した。 「……売っ払うのは止めだ、ぶっ殺す……死んで詫びろガキィィ!!!」 ゴズマは怒りの咆哮をあげ、羊司を袈裟懸けにしようと長剣を構え走り出した。 木の枝をゴズマに投げつけ、羊死は背中を向け逃げ出す。 「おおおぉぉぉ!!」 顔を目掛け飛んできた枝を難なく叩き落とす。 そして返す刃で羊司を切り上げようとする。 即座に左手の土をゴズマにぶつける。 「ぶっ、糞がっ! 目潰しか!!」 まともに顔面から湿った土を受け、普段感じることの無い目の痛みにゴズマの動きが鈍る。 殺してやる、とゴズマが叫びながら目を擦っている間に、羊司は全力で森の奥へと逃げる。 「ちぃっ、この。 待ちやがれ!」 ゴズマも追いかけるが、思うように視覚が安定しない。 また、羊司はあえて狭い道を通り、巨躯のゴズマは樹木に道を遮られ、思うように走る事が出来ない。 自慢の鼻も立ち聳える樹木には無力の様だった。 ゴズマは目に入った砂を取ることに専念し、立ち止まった。 足音が遠くなる。 土を涙で洗い流し、何とか視力は戻った。 「うおおおおおぉぉぉぉぉぉん!!!」 咆哮を上げゴズマは二匹の逃げまわる獲物に死を知らしめる 追う。 強靭で俊敏な脚力を持つゴズマは、瞬く間に羊司との距離を詰めていく。 「っつ、マジで速いぞ、あいつ!」 羊司は背中から感じたことの無い恐怖を受け、冷や汗を掻く。 日本では日常でほとんど馴染みの無い殺人を、この世界の住人は当たり前のように行う。 付き纏う死の影に脅え、羊司の目から涙が溢れる。 「しっ、死にたくねぇ!」 涙で視界が滲み、慌てて腕で拭う。 「痛っ」 擦り傷だらけになった腕が涙で染みる。 なぜこんな事になってしまったのだろう。 羊司は戻れるなら昨日に戻りたいと思った。 「うおおおおおぉぉぉぉぉぉん!!!」 それ程離れていない場所でゴズマの叫喚が震える体を貫く。 「畜生っ、生きてやる! 絶対に!」 羊司は疲労でふらつく足に力をこめた。 ゴズマが羊司の姿を視覚に捕らえる。 「追いかけっこは終わりだぜ、糞ガキ!」 ゴズマの速度が上がる。 森を踏み荒らす音が聞こえ羊司が振り向くと、すぐ傍にゴズマの姿が見えた。 「やばい!」 速度を上げようとするが羊司の身体が悲鳴を上げるだけで、うまく走ることができない。 羊司の体はとっくに限界を超えていた。 意識は急げ、逃げろと伝えるが、身体が全く追いついてこない。 羊司は先程と同じ様に牽制に砂を浴びせようとするが、ゴズマは両腕で顔を守り、大して効果を得られない。 「ヨウジさん、こっちです!」 万事休すかと思ったその時、コリンの声が聞こえた。 「コリン!」 「そこにいたか、小娘!」 コリンは樹陰から顔を出し、羊司に手を振った。 羊司は頷き、コリンに向かって気力を振り絞り駆ける。 「おおおおぉおおぉぉぉ!」 「ガキイイイィイィィィ!」 ゴズマの姿が羊司の背後に迫る。 「コリンッ!」 「ヨウジさんっ!」 羊司は体勢を低くし、コリンの元へ飛び込む様に駆け込んだ。 身体を屈め、動かないでいるコリンの手を取る。 引っ張られるコリンだが、速度の乗っていないそれは致命的な失敗だった。 コリンのもつれた足がバランスを崩す。 姿勢が崩れ、コリンと羊司は前にうつ伏せに倒れこんだ。 その逸機を見逃すゴズマではない。 二人は振り返り、もうゴズマから逃げ切れないことを悟った。 「終わりだ、糞ガキ!」 ゴズマは速度を落とさず抜剣し、羊司を刺し殺そうと腰だめに構えた。 羊司は考えた。 力では歯が立たない。 逃げ切れるとは思わない。 奴隷になれば生き残れるが、コリンの命は奪われてしまう。 なら二人一緒に生き残るにはどうすれば良いか? 必死で知恵を振り絞る。 19年の人生の中で、最も頭をめぐらせた。 そして思いついた決死の策。 一人が罠をはり、もう一人が囮になる無謀な策とは言えない様な愚策。 出会ったのが数時間前で、まともに話を出来たのがたった一時間前だ。 信頼関係と言えるものも碌にできておらず、片方が裏切れば簡単に瓦解する策だ。 しかし、羊司は信じた。 「げこぉっ!?」 それしか方法は無いからと言う理由からではなく、怖がりで泣き虫な少女だが自分を救ってくれた優しさを信じた。 「げぇーーっ、ご、ごふっ、げぇーっ、げほっげほっげほっ……」 突然ゴズマの身体が上半身だけ急停止し、下半身を前方に放り出した。 剣を取り落とし仰向けになって必死で首を抑えもがく。 「ざまあみろ……駄犬」 羊司とコリンはゴズマの苦悶の表情を見ながら、ゆっくりと痛みと疲労と恐怖に震える身体を起こした。 話は少し遡る。 「コリン……今から俺の言うことをちゃんと聞いてくれ……」 コリンを庇い背中に隠した時、羊司は小さく呟いた。 「は、はい……」 「俺の後ろのズボンのポケットの中に、さっき切れた弦と予備の弦が入ってる。 それを取ってくれ」 コリンは羊司のズボンから、丸めて収められていた弦を取り出す。 「ありました」 「それを持ってこの森を真っ直ぐ走れ」 「えっ?」 羊司の言葉に戸惑う。 このヒトを置いて自分だけ逃げてよいのかと思う。 しかし、 「できません……」 結局、ゴズマの足の速さに逃げ切れるはずと諦念し、また羊司を置き去りにするという良心の呵責に耐え切れず、コリンは俯いてしまった。 ゴズマが何か言っているようだが、コリンの耳には届かない。 「コリン、君のする事は逃げる事じゃない」 コリンの心情を察し、羊司は優しく言い聞かせる。 「君は走って、この弦で森に罠を張るんだ。 出来るだけ狭い樹木に精一杯足を伸ばして弦を結ぶんだ。 俺が、怒り狂っているあいつをおびき寄せる。 出来るな?」 コリンは羊司の意図をよく理解した。 「でも……絶対無理です」 それでもコリンは頭を左右に振り、否定する。 ゴズマのあの足の速さにヒトである羊司が逃げ切れるわけが無い。 「コリン、一度でいいから俺を信じて欲しい」 その言葉にコリンは顔を上げる。 表情は窺えないが真剣な表情をしているのはわかった。 「頼む。 絶対に君のところまで、どんな手を使ってでも逃げ切って見せるから」 その力強い言葉に、コリンは決意した。 「わかりました……信じます」 コリンは一分一秒でも早く罠を仕掛けることで羊司を信じる証とする。 羊司の信頼に報いるためにも。 「しかし、お前も運が悪ぃな。 あの姫さんに出会っちまったせいでお前も俺に見つかっちまった。 全部あの姫さんのせいだぜ?」 「コリンは悪くない」 行けっ、と羊司は呟いた。 コリンは頷き、恐れを勇気でねじ伏せ走る。 「他の誰よりもコリンに会えて良かったと思ってる。俺は――」 全部聞けないのが少し残念だった。 「どうだ、ヘヴィゲージの弦の味は?」 「ぎ、ざま……」 苦しみ悶えているゴズマに羊司は嘲りを含め言い放つ。 「お前は激昂しやすい性格だったからな。 簡単に挑発にのってくれた」 「何、を、しやがっ、た……」 「ギターの弦をお前の身長に合わせて張っただけだ。 こんな森の中じゃ視界も悪いし、早々ばれない。 しかも樹木と樹木の間が狭いし、枝があるから首を突き出す格好になる突きしかできねぇだろ。 この辺りはコリンが機転を利かせてくれたおかげだな。 あとはお前が勝手に幹に張った弦に全力で突っ込んで自滅したんだ」 「舐めた、真似……じやがって……」 ゴズマは血走った目で羊司を見、這いながら落ちた剣に手を伸ばす。 しかし、その手が長剣に届くことは無かった。 「俺が引導を下してやる」 長剣を拾い、羊司はゴズマに死刑宣告をする。 後ろでコリンが息を呑む。 手を伸ばし羊司の服を指ではさみ、これから行われるであろう人殺しを止めようとする。 「ぎざま……」 「俺はコリンの為、そして自分の為にお前を殺す。 これから何度も誰かに襲われるだろうけど、その度にそいつらを殺す」 「一生、やってな……」 大きく咳き込み、ゴズマは血を吐いた。 呼吸器系の損傷が相当酷いようだ。 「ヨウジさん……」 「コリン、手を離してくれ」 止められないとわかったのだろう。 コリンは伸ばした手を離した。 そして俯き、ゴズマから顔を背ける。 「コリン、しっかり覚えておいてくれ。 俺はこれからも人を殺すって事を」 それだけ言うと、羊司は重い長剣を振り上げ、ゴズマの首を目掛け振り下ろした。 「……行こう、コリン」 「……はい」 ゴズマの遺体をその場に放置し、二人は歩き出した。 コリンはすぐに立ち止まり振り返ってゴズマを見る。 悲しそうな表情で死んだゴズマを眺め、何かを振り切るように目を背け、先を行く羊司を追いかける。 そして二度と振り返らなかった。 置き去りにしたギターや籠を取り、薄暗い森を二人は歩く。 先ほど初めて人殺しをしたのが心に重くのしかかっているのか、二人に会話は無い。 普段あまり饒舌ではないコリンも、何かを言わなければならないと口を開こうとするが、なぜか言葉が出てこない。 コリンが沈黙を気まずく思いながら羊司の背中を眺めていると、突然羊司がコリンの法を向き、口を開いた。 「コリン」 「は、はい。 なんでしょうか!」 羊司の真剣な表情に、コリンは気押されたかのように身を硬くする。 「コリン、その……さっきも言ったかと思うんだけど」 さっき? さっきとは何の事だろう、と思い始めたところで、心当たりがあったのかコリンの頬が赤く染まる。 「しかし、お前も運が悪ぃな。 あの姫さんに出会っちまったせいでお前も俺に見つかっちまった。 全部あの姫さんのせいだぜ?」 「コリンは悪くない」 「他の誰よりもコリンに会えて良かったと思ってる。俺はコリンのことが――」 コリンは耳まで顔を赤くしながら、羊司の言葉を待つ。 「ええとだな、その、きのこは捨てた方がいいと思うんだ」 「はい?」 コリンは耳を疑った。 「いやさ、なんか見るからに怪しさ全開のきのこ取ってただろ? あれって幾らなんでも食べると身体に悪そうって言うか……」 羊司は如何にも言いにくそうに話し、コリンの籠に手を伸ばす。 突然伸ばされた手にコリンは身をすくめる。 そんなコリンを早く俺に慣れて欲しいと思いながら羊司は、さきほどコリンが拾った赤いいぼ付ききのこを手に取る。 コリンは恐る恐る目を開き、羊司の手を見た。 「えーと、ヨウジさん」 「他の食材ならまあ何とか料理できなくも無いけど、これはちと無理――」 「食べませんよ。 これは」 羊司はぴたりと静止する。 「これは食用じゃなくて薬用です。 疲労回復や滋養強壮など様々な効用がある北のこの地方にしか生えない珍しいきのこなんです」 「あ、そうなの……」 それを聞いて羊司は胸をなでおろす。 「心配、して下さったんですね。 ありがとうございます、ヨウジさん」 コリンは微笑み、頭を下げる。 一瞬期待してしまった事とは違うが、羊司は自分を気遣ってくれたことに素直に感謝を述べる。 「ああ、いや、そんな、頭下げないでくれ。 なんだか照れる」 羊司も先程のコリンと同じように顔を耳まで染め上げる。 顔を上げたコリンの顔を直視できずに必死で手を振り、別の話題を探す。 「あ、なんか変な動物がいるぞ! 見てみろって、コリン」 焦る羊司の指差した方角にコリンが目を向けると、全身が薄い茶色に覆われ顔面だけ白い動物がいた。 「あ、クト」 羊司が何かを言う前に、コリンはクトと呼ばれたラクダの様な動物に駆け寄る。 クトは嬉しそうに首をコリンに擦り付け親愛の情を示す。 「くすぐったいよ、クト」 「随分馴れているんだな」 危険はないと判断したのか羊司はクトに近づく。 コリンは微笑みながら頷く。 「ずっと一緒に旅してたの。 クトはリャマっていう動物の種類で、荷物の運搬とか随分お世話になってるんです」 コリンはクトの頭を撫でながら答える。 「へぇ、これからよろしくな。クト」 羊司が頭を撫でようとすると、その手から逃げる様にすぃっと顔をそらした。 「あ、こら」 「ふふっ、嫌われちゃいましたね」 人好きな性格だからすぐ仲良くなれますよとコリンは笑いながら、クトの首にかかった手綱をとる。 歩き出したコリンに逆らわずクトは歩き出した。 「こっちです。 羊司さん」 「あぁ、わかった」 一人じゃなかったんだなと考えながら羊司は、コリンとクトの良好な関係に笑みを浮かべた。 「ここです。 羊司さん」 案内されたテントは思っていたよりも大きかった。 モンゴルのゲルを一回り小さくした円形状のテントは、骨盤がしっかりしているのか、ちょっとやそっとでは倒れる心配は無さそうだ。 周囲には炊き出しに使った鍋や、簡単な岩を並べたコンロがあった。 「初めてヒトを入れるんですけど、ドキドキしますね」 コリンが照れくさそうに言った。 羊司は異性の部屋に入った事が数回あったが、それほど興奮したりはしなかった。 しかし今は心臓の音がコリンに伝わるのではないかと思うほど緊張していた。 コリンは蚊帳を開き先に入り、羊司を中へと促す。 「汚いところですけど、笑わないで下さいね?」 「あはは……」 羊司が苦笑しながらテントに足を踏み入れようとし、ふとその場で動きを止める。 首をかしげコリンは羊司の動きを観察する 「ヨウジさん?」 「あ、えーと……これから俺が何時までかかるかわからないけど、元の世界に帰るまでお世話になるだろ? その度にお客さんとして扱われるのはどうかなーと思うわけなんだ。 あー、だから、つまり……その――」 コリンの目を見れないのか、しきりに目を泳がせる。 「ええとだな……これからよろしく、ただいま……かな?」 「はい……私こそ、よろしくお願いします。 お帰りなさい、ヨウジさん」 コリンと羊司はお互い微笑みあう。 暗く寒い森の中の小さなテント、異世界から迷い込んだヒトの男は孤独で泣き虫なヒツジの少女と共に暮らし始めた。 男は自分の世界に帰るために、少女は未だ自分が何をすればいいのかわからず旅を続ける。 これは歴史に刻まれるヒトと人間の寄り添いあった生涯を描いた物語である。 「コリン、ギター弾いてやろっか?」 「わぁ、聞きたいです。 ヨウジさん」 「よし、じゃあ外にでよう」 「はいっ!」 二人の未来に幸多からん事を。